○せこぼーず(カリコボーズ)とは
せこぼーずは、春の彼岸から「水神」として川に住み、秋の彼岸に山に登り「山の神」として、西米良の山や川の自然を守っています。その、せこぼーずの通る(移動)道が、川の淵に落ち込んでいる尾根(おうぐ)といいます。その、おうぐには、家を造るなとか、勝手に木を切るなとかの言い伝えがあり、それを怠ると、家を揺すったりすると言われています。又、せこぼーずは、おうぐからおうぐへ渡ると言い、その時や彼岸の移動の時に、「ホイ、ホイ、ホイ」と声を出しながら渡ります。その様は、山で猟をする時に、獲物を狩りだして、追う仕事をする人、「勢子(狩子)」のようで、いたずらをすることから「坊主(やんちゃぼうず)」と呼び「せこぼーず」となったようです。
せこぼーずの話
米良山の、竹原に、井戸内谷という、谷川があって、そこの、おっくに、「せこ谷」ちゅう、小谷が流れこんどって、「せこぼーず」どんの通りやる、おうぐがあっとよ。ここ辺は、昔、炭焼きどんが、ぎょうさん、入っとって、炭を焼きよりやったとよ。
そん炭ば、運ぶ馬引きどんがよ、ある日、炭運びば、しもうて、焼酎一杯きげんで、帰りよったっちゃげな。そん日は、犬(いん)を連れとったげな、犬はよ、まっ暗れとこでも、さるくもんじゃから、馬引きどんの、前やら後ば行きよったげな。
いっときして、「せこ谷」に架かっとる勢子橋を渡りよったら、いきなり、犬が、「ヒューン」と、にゃーて、しりっぽば、みゃーて、馬引きどんのそばに寄って来たげな。
馬引きどんは、「なんしよっとか、じゃめなっが。」と、言いながら、鼻歌どん歌いながら歩きよったら、こんだ馬がひとつも歩かんごとなって、後すざりばはじめて、犬は、馬引きどんの股ん下に、ずりこんで来てしもうたげな。
「こりゃ、えれぇこっちゃ」馬引きどんは、首ん、みゃとった、手ねげで、ふりかぶりして、「こらしもた、どうでん、せこぼーず、じゃわい、やいや、こらぼくじゃ。」馬引きどんは、馬がこけんごと、くつわを力まかせに引っ張って、道ん、おわでに、引っ張っていたげな。
そんときよ「キキー、キリキリッ、キリキリキリーツ。」ちゅて、馬引きどんの、びんたん上で、妙に気色の悪りい声がしたげな。「あんじゅんこと、せこぼーずじゃが。」
そん声の気色の悪りいこつ、馬は、うーそうど、するは、犬は、「ヒューン、ヒューン」泣きながら、馬引きどんの股ん下に首ばつっくんで来るし、馬引きどんも、びんたに、はがまでもかぶったように、びんたが「ガン、ガン」うなりはじめたげな。じゃどん、馬が騒動して、道ん下に、飛び込みやせんかとばっかり、しんぺぇで、馬ん、くつわにぶら下がっとったら、「キリキリキリーッ、キリキリー」。こんだ、げどされが、後ろんほうで、おらびだしてよ、馬引きどんは、いよいよ耳まで、うなりだして、びんたん毛も、一本立ちしたげな。
そんうちに、せこぼーずの声が「ホイ、ホイ、ホイ」「ホイ、ホイ」と、こんだ、気の抜けたような声で、びんたん、上を通って、向かえん山さね、移っていったげな、そしたら、いんままで、騒動しよった馬も、犬も、おとなしゅうなって、泣き方をやめたげな、馬引きどんは、「やれやれ、やっとんことで、こらえられて、くりゃったわい、えれえめにおおた。」
ふりがりをしとった、手ねげえを取って、めっけんずらの汗をぬぐうた、馬引きどんは、そけ、しゃがみてごたったげな。焼酎いっぺえ、きげんじゃった、馬引きどんも、せこぼーずどんのおかげで、焼酎もいっぺんに醒めてしもうて、寒う、くそなったげな。やっとんことで、馬が歩みはじむっと、馬引きどんは、やいや、今夜は、せこぼーずどんの通りやっとこに、出くわした、もんじゃったっちゃろ。と思うて道を急いだげな。
せこぼーずどんも、「コラッ、おりが、先に通っとじゃが、いっとき待っとれ、焼酎どん喰ろうて、いきによぅたことか。」といいてかったっちゃろ。馬引きどんは、「馬や犬どま、えれえもんじゃ、見えんもんでも、じき分かっちゃから、おりも、はよ気がちいて、ことわりでん、いえば、何のこた、ねえかったっちゃろが、なんさま、こげん、ひったまがったこたねえかった。」
井戸内の、勢子谷の、せこぼーずの話が、広がって、夜、おそうに、通るもんは、おらんように、なったげな。せこぼーずは、悪りこたせんけど、時々、いたずらを、しやって、びっくり、さすっことがあっとですよ。 と、もうす、かっちん
【中武雅周著 米良風土記 「夜話 かりこぼう」より】ちっと、井戸内弁にしました。
体 験 談
井戸内の、作小屋から、村所の小学校・中学校に、歩いて、約2時間の道のりです。毎日、5時頃には、ランドセルを背負って、走ったり、ワンゴロころがし(輪転がし)をして、通っていました。
冬の、ある日、中学校の部活を終えて、真っ暗になった、夜8時頃、「勢子橋」を渡たりよったら、「ギヤーツ、ギリギリーツ」と、ものすげえ声がしたら、びんたん毛が一本立ちして、ちみてえー、汗が背中を、ちろ、ちろと流れ出してよ、もう、びっくり仰天、こいが「せこぼーずどん」じゃろかい、と、おもたら、向かいん、山ん中で「ホイ、ホイ、ホイ、ホイ」ちゅうて、おらびだしやったとよ、もう、家までの、200mが、なげかったこつ、後にも先にも、一回だけじゃどん、「せこぼーずどん」の通りやっとこに出くわしたっちゃろかい。